会長挨拶

日本大気化学会の新たな飛躍へ向けて

金谷有剛

第12期会長に就任しました金谷です。現在、当学会と関連する国際IGAC(地球大気化学国際協同研究計画;フューチャーアース傘下)の科学委員、IPCC(国連気候変動に関する政府間パネル)の第6次評価報告書レビューエディターを務めております。
本会は会員数三百名弱の小規模な学会ですが、機動性と和やかな雰囲気を大事にし、学術研究集会での議論を中心に活動しています。具体的には、1995年に始まった大気化学討論会や、 JpGU大会での大気化学セッションを開催し、ディスカッション重視型の知的交流を行っています。40歳代の中堅世代が中心となって運営している点も特徴です。
地球大気の組成は窒素、酸素、アルゴン・・・などと習われた方も多いことでしょう。その先ずっと微量成分まで追いかけて行くと、二酸化炭素、 メタン、 水素、オゾン、究極的には1兆分の1の割合以下のOHラジカルなども現れます。PM2.5としても知られるようになった液体や固体状の「エアロゾル粒子」も大気成分に含まれます。これらの成分は、微量ながらも、「地球温暖化」や「半球規模の大気汚染」といった地球環境問題に直結しており、課題解決の議論にも密接につながります。また、大気微量成分の多くは化学反応によって変化し、濃度がダイナミックに変動することも一つの特徴です。しかしながら分子レベルのプロセスなど未知の点が多く、研究要素が多く残されています。本会が扱う「大気化学」は、このような地球大気の化学組成に関する物質循環像・収支像をとらえ、化学反応や物理現象などの普遍的原理を明らかにし、社会に広く貢献することを目指しています。
最近、世界的なコロナウィルス蔓延・経済活動低下の際に、二酸化窒素(NO2)の大気汚染レベルが急に改善したことが人工衛星観測から即時的に評価され、社会応答の指標になるとしてニュースでも話題になりました。この知見の裏側には、30年にわたる衛星センサやアルゴリズム開発、検証観測、成層圏・対流圏のモデリングに関する基礎研究の歴史と蓄積があります。また、2050年脱炭素社会への変容が求められるなか、「温暖化物質の排出削減がうまく進んでいるのか」に関する的確な評価が必要な世の中となってきました。私たちが取り組む野外での精密な計測や、数理モデルによる排出量や収支の評価は、温暖化を和らげる道筋を確かなものにするエビデンスとなります。このように、物質科学を扱う当分野では、求められる応用範囲が拡大し、新たな使命も生まれています。
以上のような新たな課題も意識しつつ、第12期では以下のことに取り組みます。まず、「大気化学の将来構想2022-2032」を議論してとりまとめ、公表します。大気圏と外との物質のやりとりは、人間活動による排出だけでなく、海洋や陸上植生などの「生物圏」との間でも起こります。自然のシステムが地球温暖化を和らげる方向に働くのかについても、俯瞰的に取り上げます。そして、気象学を含む隣接研究分野と連携する、大気化学の将来像も描きます。また、国際的な研究活動における日本の研究のビジビリティの向上、日本学術会議の学術協力団体としての役割の向上も目指します。
本会の発展には、会員の皆様一人一人が個性を発揮できること、相容れない知見でも持ち寄って率直に議論し、統合的な知識や知恵へと高めてゆくことが大事です。オープンな運営に努めますので、会員の皆様や関係諸方面の皆様には、引き続きご指導とご協力をお願い申し上げます。

2021年07月05日
     
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