会長挨拶
新たな時代、大気化学の真価発揮のとき
第12期に続き、第13期の会長を拝命しました金谷有剛です。2025年6月までの2年間、引き続きどうぞよろしくお願いいたします。
第12期での大きな活動の1つに、「大気化学の将来構想2022-32」の取りまとめがありました。各論7テーマの議論と原稿作成には、多くの会員の方や会員外の方にご参加いただき、オープンな形で取りまとめることができました。改めて関係の皆様にお礼を申し上げます。そのエッセンスを要約し、これからの大気化学の研究開発の在り方を俯瞰した「概論」を、査読ののちに日本学術会議第25期の「記録」として公表することができました。

金谷有剛
概論と各論を合わせた全体版についても近日中に本会のウェブで公開します。
本将来構想の策定では、50年ほど先の将来に大気化学が達成しているべき「究極のゴール」をまず設定し、そこから遡って直近10年の計画はどうあるべきか、と考えました。その究極のゴールとしてまとめられた3点を要約すると、
- 「(1) 大気化学の専門的探求を深め、あらゆる大気成分について濃度や特性の変化を方程式等で表現でき、実大気中の現象や変化の仕組みの説明と将来予測を可能とすること」、
- 「(2) 大気化学と隣接する地球システムの学際的探求により、気候・健康影響を定量化でき、陸・海・生物圏との物質科学的な相互作用を体系的に理解すること」、
- 「(3) これらの理解の深化に基づき、社会との超学際連携により、気候変動や大気汚染等の緩和・適応策のためのエビデンスを提供すること、社会へ的確な将来予測情報を提供できること」
となります。このことでもわかるように、本会の取り扱う、地球大気の物質科学は、大気化学の謎を解き明かすサイエンスの発展と、持続可能な社会の構築の両面で重要なものです。
第13期はこれらの大きな目標を視野に入れ、計画を着実に実行へ移してゆく大事な時期となります。自ら見出したサイエンスの糸口を突き詰め、数値モデルと観測の連携を深め、物質を複合する統合的な解析などに力を結集し、ゴールに少しでも近づくことができたらと思います。CO2やメタンなどの温室効果気体の動き、地表付近の大気汚染物質であるオゾンやエアロゾルと原料物質の動向、成層圏オゾン層の変化などを統合的に捉え、人工衛星やAIなど新しい切り口も加えてメカニズムを明らかにし、自然の姿から人間活動と地球の持続可能性の関係までを評価してゆきます。
この目標達成のためには、データの国際的な可視性やオープン性の向上や、データ科学の推進なども強化すべきポイントです。当分野では、気候安定と健康の両立を見つめていますが、持続可能性に関する今後の議論では、食糧や生物多様性など、第三、第四の価値とのバランスについても科学的な知見が必要とされる場面も増えてゆくことでしょう。こうした期待にも応えられるように、研究者の多様度も高め、新たな展開を生み出してゆけたらと思います。そのためにもぜひ、新たに学会員に加わっていただける隣接分野の方やご関心のある方をお待ちしています。
当分野の最大の国際会議の1つであるiCACGP(大気化学と地球汚染に関する委員会)・IGAC(地球大気化学国際協同研究計画)合同会議は、次回、2024年9月マレーシア・クアラルンプールにて開催予定です。国内では春の日本地球惑星科学連合(JpGU)での大気化学セッションや秋の大気化学討論会を活動の拠点としています。これらの機会に、最新の科学的知見を基にした学術交流を進めてゆきます。
また、隣接分野との連携や社会との対話、次期IPCC(国連気候変動に関する政府間パネル)第7次評価報告書(AR7)サイクルなどのアセスメントへの貢献、一般社会へのわかりやすい情報発信などを通じて、「大気化学」の真価を発揮してゆけたらと考えています。
どうぞよろしくお願いいたします。