真鍋淑郎博士のノーベル物理学賞受賞に際して
真鍋博士は本会と直接的な関係はなかったかと存じますが、本会会員の中にも、これまでに薫陶を受け、また直接交流されたことのある方も多くいらっしゃると思います。私も2000年に学位取り立てで当時のJAMSTEC・NASDAの地球フロンティア研究システムに入所した際に、隣の研究領域の長としていつもエネルギッシュに活動されている真鍋先生の姿を目の当たりにした1人で、研究者の理想像にも重ねていたところです。
計算機で地球を再現する、大気と海洋を結合させる、CO2と地球温暖化を定量的に結びつける、という、当時はおそらく途方もないアイディアと、法則を積み重ねる緻密な作業の結晶として、これまでになかったもの、そしていまでは地球システムモデルの柱としてなくてはならないものが生み出されたのだと、捉えています。
大気化学分野では、フロン等による成層圏オゾン層破壊原理の発見に際しての、1995年ノーベル化学賞(Paul Crutzen博士、Sherwood Rowland博士、Mario J. Molina博士)が、気候変動分野ではIPCC第4次評価報告書に対するノーベル平和賞(2007年)がありますが、地球環境と人間社会の関係性をひもとく科学的な成果が世の中の脚光を浴びる機会がますます増えてきたということとも感じます。
その一方で、Curiosity(好奇心)に駆り立てられた研究、という言葉も、今回の真鍋先生の受賞を取材された報道の中で多く見られました。この点についても、すべての研究者に通じる要素として、当該分野でもさらに大事にすべきとの観を新たにしたところです。
日本大気化学会としましても、このような博士の姿勢に学び、今後の取組に活かしてゆきたいと考えております。
日本大気化学会会長 金谷有剛