大気化学研究会ニュースレター No.1

「大気化学研究会」の発足にあたって

大気化学研究会会長 秋元 肇(東大先端研)


「大気化学」は地球上における化学物質循環を、大気を中心とした視点からとらえる新しい学問領域で、地球大気環境問題を自然科学的な立場から解明する学問的基礎としては大気物理学と並んで二本柱のうちの一つと考えられている分野です。しかしながら大気物理学が長い歴史的伝統をもって発展した来たのに比べて、大気化学の歴史は浅く、一つの学問分野としての本格的な発展が始まったのは、高々この10数年であり、地球環境問題の国際社会の関心の高まりと共に発展してきた学問分野といっても過言ではありません。

大気化学はその学問体系の成り立ちからして従来のディシプリンでいう地球物理学、気象学などの物理系分野と地球化学・物理化学・分析化学・海洋化学などの化学系分野を包括したトランス・ディシプリナリーな学問分野です。さらに、大気化学を学問的に深いものにしているのは、こうした地球大気物質循環に地球上の陸上・海洋生物が深く関わっていることで、生物活動を介したフィードバック機構の解明が大気化学の最終的な到達点といっても良いと思われます。大気化学では人間活動をこうした自然物質循環に対する擾乱として捉えます。より大きな自然のサイクルの中における人間活動による地球変動のメカニズムを明らかにし、国際社会が 対策を考える上で必要とされるサイエンスの側からの情報提供を行うのが大気化学の社会的役割でもあります。

この様な背景の下で大気化学は欧米ではかなり市民権を獲得している学問分野ですが、我が国では残念ながら近縁の研究者を除いてはまだ充分に認知されているとは言い難い状況です。この様な状況を改善するため、従来はそれぞれの既成学会の中で活躍している研究者間の相互連絡組織として、また対外的に発言の場を持つための組織として、この度本年1月に「大気化学研究会」が発足しました。

当面「大気化学研究会」では、国内における学術的研究発表・研究連絡の場として春(6月頃)の「大気化学討論会」の主催、秋/冬の名古屋大学主催の「大気化学シンポジウム」の共催を主な活動とし、また特にIGAC/IGBP(International Global Atmospheric Chemistry Program/International Geosphere-Biosphere Programme; 地球大気化学国際協同研究計画/地球圏・生物圏国際協同研究計画) さらにSPARC/WCRP(Stratospheric Process and their Role in Climate/World Climate Research Programme; 成層圏気候影響研究計画/世界気候研究計画) などの国際協同研究プログラムとの連携機能を果すことを考えています。

対流圏・成層圏(中間圏以上でももちろん構いませんが) 化学にご関心のある皆様にはこの機会に是非御入会いただき、「大気化学研究会」を意義ある研究会にすべく、会の運営にも積極的に携わって頂けることを期待しています。「大気化学研究会」は民主的な運営を目指しており、初代の役員・運営委員予定者は選挙によらず互選によって選出しましたが、2年後からは会員の直接選挙で役員・運営委員を選出することになっています。入会のお申し込みとお問い合わせは大気化学研究会事務局(名古屋大学・太陽地球環境研究所・近藤豊 <taikiken@stelab.nagoya-u.ac.jp>)まで。年会費2,000 円、学生会員は無料です。

第9回大気化学シンポジウム行われる

今年度で9回目となる「大気化学シンポジウム」が、平成11年1月6日から8日までホテルアソシア豊橋で行われました。このシンポジウムには全国の大学、研究所から約140人が集まり、対流圏/成層圏大気のグローバルな観点からの化学・輸送過程について、最新の研究成果が発表されました。また、初日の夕方には大気化学研究会発足発足に先立ち、総会が行われました。今回のシンポジウムでは、以下に報告されているように地球科学技術フォーラム/地球観測委員会ATMOS-C1チームとの共催で実施され、今後の衛星による大気化学観測に関する議論も行われました。

第9回大気化学シンポジウムATMOS-C1セッション報告

ATMOS-C1チーム主査 内野修(気象庁観測部環境気象課)

11年1月6ー8日にホテルアソシア豊橋で開催された第9回大気化学シンポジウムの2日目に行われたATMOS-C1セッションについて報告する。ATMOS-C1ミッションは、地球科学技術フォーラム/地球地球観測委員会のATMOS-C1チームでこれまで議論し、まとめてきた大気観測のミッション提案である。 ATMOS-C1ミッションの目的は、

  • オゾン及びオゾンに影響を及ぼす大気微量成分、二酸化炭素、メタン、水蒸気、エアロソルのグローバル分布を衛星を用いて観測する。
  • 地上及び航空機のデータも含めた大気微量成分のグローバルデータベースの構築・解析を行って、大気物理・化学過程を定量的に把握する。
  • 光化学モデルを含む三次元化学輸送モデル、大気大循環モデルの数理モデルを開発する。
  • これらを用いて、オゾン層破壊のメカニズムの解明と監視、また地球温暖化原因物質の緯度分布・時間変化から、それらの発生源(特にバイオマス燃焼)と消滅先の地理的分布を定量的に明らかにする。
  • さらに観測データ処理技術や数理モデル等の高度化を図ることにより、オゾン層破壊や紫外放射の予測、気象数値予報の高精度化および地球温暖化の将来予測、大気汚染の予報・対策に資する。

ことである。なお詳しくは9年9月に同チームからのATMOS-C1ミッション提案書を参考されたい。

ATMOS-C1ミッションに関連して、まず外国の大気化学観測衛星計画について小川よりレビューがなされた。次に内野からATMOS-C1ミッション計画のこれまでの経過とミッションシナリオについて報告した。特にオゾン層破壊と地球温暖化問題に対処するためのミッションの意義が強調された。

次にATMOS-C1で検討されている次の6つのセンサーと主な観測項目と目的・意義について、柴崎、増子、中島、青木、鈴木、長澤の各担当者が発表した。

  • オゾンダイナミックス紫外分光計II (ODUS-II) O3, SO2, NO2
  • 超伝導サブミリ波リム放射サウンダ(SMILES) ClO, BrO, H2O, T
  • 改良型大気周縁赤外分光計III(ILAS-III) O3, aerosol, CFCs, CO2
  • 同調型エタロン分光放射計(TERSE) H2O, CH4, CO2
  • 大気放射フーリエ変換分光計(ATRAS) T, H2O, CO2, CO, O3
  • 差分吸収ライダ (DIAL) H2O, aerosol

センサーについての詳しい説明は夕方からのポスターセッションでなされた。

これに対して、秋元、中根、塩谷から対流圏、成層圏、対流圏/成層圏相互作用についての科学的な意義と測定すべき対象についてサイエンスの立場から講演がなされた。秋元は、対流圏化学からの衛星観測への期待として、空間的・時間的に適度の不均一性を持つ成分が衛星観測の意義が最も大きく、たとえば温暖化や越境大気染に影響を及ぼす対流圏オゾンやエーロゾル、SO2、COの観測が重要であると述べた。これに対して二酸化炭素やメタンはオゾンなどに比べてその変動が大きくないことから、測定するにしても発生源や消滅先や吸収源を推定できる十分の精度で測定されるべきである。その他の物質として例えばDIALなどで、O3、C2H6等を測定できれば意義深いとされた。司会者の近藤は秋元の意見に全く同感であるとコメントされた。

次に、中根はオゾン層の現状と将来見通しを述べ今後のATMOS-C1の果たすべき役割と意義について講演した。 塩谷は水蒸気やオゾンをトレーサーとした対流圏と成層圏の物質循環の解明が期待されるとした。そのためには高い高度分解能の観測が特に重要であるとした。

このようなサイエンスの立場からの要望を受けて今後ATMOS-C1チームとしてさらなるミッション及びセンサーの検討を進めるとともに、受信信号から物理量を導出するためのアルゴリズム開発、衛星観測とハーモナイズされた地上や航空機観測、化学輸送モデルの開発、データ利用の検討を進めていくことが肝要である。最後に今回の大気化学シンポジウムでのATMOS-C1セッションは非常に有意義であったと考える。この機会を与えて下さった名古屋大学に感謝の意を表します。

事務局だより

大気化学研究会の事務局を名古屋大学太陽地球環境研究所で引き受けることになりました。メンバーは以下の通りです。

事務局長 近藤 豊、事務局員 松見 豊
研究会も発足したばかりで、事務局も慣れておりませんのでご迷惑をおかけするかもしれませんが、よろしくお願い申し上げます。稚拙ですがホームページを作りましたので、ご覧ください (http://www.stelab.nagoya-u.ac.jp/ste-www1/div1/taikiken/index.htm) 。電子メールやホームページを活用して、お金や手間がかからないが充実した情報を会員等とやりとりできるようにしたいと考えております。
(事務局 松見)

大気化学研究会第1回運営委員会の議事報告

平成11年1月6日に開催し、以下のことを運営委員会で討議・決定しました。

  1. 事務局の仕事は以下のこととする。
    • 会計
    • 名簿の作成、会員への送付
      名簿の作成および更新、会員へe-mailによる送付(年1回)。ホームページには名簿は載せない。
    • 会員同士の自由なコミュニケーションのための、メーリングリスト(ML)の作成・管理をする。(このMLへの加入・脱会は自由とする)
    • お知らせの作成、送付
      お知らせ(サーキュラー)として会員へ送付する原稿を受け付け、適当と判断したものについて会員へe-mailにより送付する。
  2. ニュースレター
    年2回程度の発行。日本語とする。
    会員外にも送って研究会のアクティビティを知らせる。
    編集委員会を組織する。編集委員 堤之智(委員長、気象研)、中根英昭(環境研)、町田敏暢(環境研)
  3. 会計
    会費は、事務局などの人件費、ニュースレターの発行等にあてる。
  4. 次回の大気化学討論会の開催
    世話人: 秋元肇、梶井克純(東大先端研)
    開催要項:本ニュースレター記事参照
  5. 各学会誌に研究会の結成および大気化学討論会の宣伝を行う。

第5回大気化学討論会案内

来る1999年6月2日(水)から4日(金)に静岡県熱海市のKKRホテル熱海にて第5回大気化学討論会を開催することとなりました。今年は正式に大気化学研究会が発会し、その研究会の後援により本討論会が開催されることは誠に喜ばしい限りです。今回からは、対流圏の研究に加えて成層圏の研究発表も積極的に受け入れたく思いますので、よろしくお願いいたします。

会期は3日間と限られており、またシングルセッションにしたいし、一件あたりの発表時間も有る程度確保したいということから鑑み、今回からポスターセッションを導入することとなりました。ポスターの時間は夜たっぷりと取りたいと考えておりますので、ご期待ください。以下に必要事項を記載いたしますのでご参考ください。

会 期  6月2日(水)~4日(金)
会 場   KKRホテル熱海 (静岡県熱海市春日町7-39 電話 (0557)85-2000)
発表申込締切 4月16日(金)
発表申込方法 次の要領で講演要旨をお送り下さい。なお、正確かつ迅速に講演要旨集を作成するために、電子メールを極力お使いいただくようお願いいたします。郵送:A4用紙を用いて、縦11×横17cmのサイズ内に、講演題目、氏名(発表者の前に◯)、所属、発表の概要を記入し、さらに余白に申込者氏名、連絡先(住所、Tel、Fax、e-mail)を記す。電子メール:上記と同様の事項を入力し、お送り下さい。受信後、こちらで編集いたしますので、特殊な文字については指示して下さい。お送りいただいた原稿は、講演要旨集として当日配布いたします。
参加登録費 25,000円(宿泊費、朝食、懇親会費、講演要旨集代を含む)
申込先  153-8904 東京都目黒区駒場4-6-1 東京大学先端科学技術研究センター 廣川 淳
電話 (03)3481-4083 Fax (03)3481-4562 E-mail: hirokawa@atmchem.rcast.u-tokyo.ac.jp

編集委員よりのコーナー

何とか初めてのニュースレターを出せそうで、ほっとしています。ところで、レターヘッドのロゴを募集しています。もっと良いロゴがあったら送って下さい。また、ニュースレターについても是非ご意見をお寄せ下さい(ytsutsum@mri-jma.go.jpまで)。今度の大気化学討論会の会場であるKKR熱海には、温泉はもちろん露天風呂や屋内温水プール、エステまであるそうなので、皆さんどしどし御参加下さい。

2017年07月10日